(2006年08月04日)
[特別記事] 中東緊迫の背景を探る-保坂修司氏

――イラクの最近の動向は。
「そんなに変わっていない。最近では、占領軍に対する抵抗運動というよりはむしろシーア派対スンニ派という構図の方によりシフトしてきて、内戦に近い状態になっている。だからこそ、米軍はいなければならないという議論になってしまうのだが、いまのイラクの治安状況を見る限り、イラクの治安機関あるいは軍隊で現状を封じ込めることはとてもできそうにない。であるならば米軍がいたほうがいいが、いればいたでテロの原因になってしまう。どちらをとってもジレンマである。ただ、民主化は形式的には進んでいる。少なくともイラクの状況はこれまでにないぐらい自由になっている。報道の自由が保障され、自由な選挙が行われている」
――石油施設のテロについて。
「2月にサウジアラビアの石油施設が襲われたが、それほど大きな被害はなかった。パイプラインなどを除けば石油施設は一般に厳しい警備下にあるから、そう簡単に襲えるとは思えない。むしろ警備の緩いところ、現場ではなく石油事務部門やパイプラインなどが襲われる可能性はあると思う。テロリストの理念では、油田や油井はムスリムの共有財産であり、それを攻撃することは許されないことになっている。ただ、石油施設や石油関係者に関してはその限りではない」
「石油施設といっても、外国企業が持っている石油施設が狙われやすい。イスラム教徒が所有している施設に関しては、理論上攻撃してはいけないことになっているが、外国と結託したイスラム教徒の所有する施設はもちろん攻撃の対象になる」
――イスラム教とテロの関係について。
「イスラム教は本質的にはテロと無関係である。イスラム教がテロを容認しているわけではもちろんない。ただ、イスラムの名を冠したテロがこれだけ多いのは否定できない。誤解を避けるためにも、私自身は、イスラム主義だとかイスラム原理主義という言葉を使わずに、なるべく『ジハード主義』あるいは『タクフィール主義』という言葉を使う。これによってイスラム原理主義の中の最も極端な人達を指す。タクフィールというのは、同じイスラム教徒を異教徒であるとして弾劾することである。その結果、その人はジハード(聖なる戦い)の対象になる。だから、タクフィール主義、ジハード主義といえば、自分達と同じ行動をし、同じ思想をもつ者以外、全員殺してもかまわないと主張する。実際そんなものはイスラム教の教義のどこを探しても出てこない。これがイスラム教の本質であるわけがない」
――『ジハード』の意味は。
「本来の意味は『努力』という意味だが、実際には神の道へ努力することを指す。武器を持って異教徒と戦う、いわゆる『聖戦』はそのうちの1つの範疇にすぎない。ところが、ジハード主義者と呼ばれる連中は、武装闘争だけを重視し、それが最も尊いと考えている。自分達と違う人がいれば、口で諭すことも本来はジハードなのだが、過激な連中はそんなことはせずにいきなり攻撃してしまう。これがジハード主義と呼ばれる所以である」
――自爆テロについて。
「自爆テロ自体はイスラム世界の専売特許ではなくて、いろいろな宗教、イデオロギーなどで使われていたわけだが、イスラムにおけるり自爆テロにはいくつか特長がある。まずイスラムは宗教的に自殺を禁止しているという前提がある。だから、自爆(=自殺)とはいわずに殉教と言い換え、『これは自殺ではない、殉教だからイスラムでも許される』と表現する」
「イスラムの自爆テロで強調されるのが遺言ビデオの存在。自爆テロが行われた後に遺言がネット上で公開される。通常ビデオで公開されるケースが多いが、多くの自爆犯がこれから死んでいくというのにニコニコと笑っているのが印象的だ。最初に米国・イスラエルの悪行を非難し、決めのポーズを撮るというのが一般的で、それから自爆テロを行う。これは、自爆テロの理由が単に怒り、不満だけではないことを示している。そういうことをやることが格好いいのである。アラビア語に『フトゥーワ』という言葉があるが、これは『任侠』や『男気』といった意味で、自爆テロを代表とする殉教を求める現在のイスラムのテロの背後にこうした美学があることは無視できないであろう。宗教や政治問題、そして貧困などの経済問題だけでなく、こうした要素が混ざって自爆テロが成り立つのではないだろうか」
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