(2006年08月07日)
[特別記事] 中東緊迫の背景を探る-保坂修司氏

――自爆テロについてそのほかには。
「もちろん軍事的にいってパレスチナ人やイラクの過激派が米軍に対抗し得る武器を持てるかといえば持てないわけで、自爆テロが効率の良い作戦であることは間違いない。ただ、それによって殺害されるのは、基本的には無実の人達が圧倒的に多い。無実の人が巻き添えになって死んでもそれはやむを得ない。そこで死んでも、正しいイスラム教徒であれば天国へ行くことができる。ならば死んでもいいではないか―こういうロジックをテロリストは主張する。自爆を現象面だけで捉えるのではなくて、より幅広い総合的な作戦であると捉える必要があるのではないか、と思う」
――最近ではインターネットとテロが連動しているようだが。
「インターネットもジハードの場になっている。ある意味これほどジハードの場としてふさわしいものはない。中東の場合、ほとんどの国ではインターネットの検閲を受けている。したがって、ビデオや声明文は、欧米や日本のサーバー上に置かれている。そういうところにしか存在し得ないところに彼らのジレンマがあると思う。また、昔は組織があって上意下達式に上が命令して部下がそれを遂行するのが基本パターンだった。少なくとも90年代あるいは21世紀以降のとりわけイスラムのテロに関して言えば、そういったものはほとんどない。たとえば、アルカイダにしても、おそらく現在では組織としてはほとんど機能していないはずだ。アルカイダは組織ではなく、現象あるいはイデオロギーである」
「そのイデオロギーをインターネット上で見つけた、読んだ、聞いた人達の中で触発された人がテロを起こす。それがアルカイダである。決してアルカイダという組織があって、ビン・ラディンなどが指令を出してテロを行うのではなくて、すでにあるさまざまな声明やイデオロギーなどの素材がネット上にばらまかれていて、それを見た人達が反応して事件を起こす。イラクの場合は別だが、基本的には、ロンドンやマドリッドなどで行われたテロも含めてそのパターンが圧倒的だろう。さまざまな国や地域に不満を持ったイスラム教徒の若者がいて、インターネットは彼らに暴れるための大義やノウハウを提供するわけだ。彼らは、ネットを通してイデオロギーを、そしてさらに武器の扱いや爆弾の作り方などまで学ぶことができるのである」
「ただ、現在のところ、イスラム教徒の若者をテロに駆り立てるのはイスラムのロジックによるもの。多くの若者が不満をもち、同時にイスラムの土地が異教徒によって占領されているという現実もある。パレスチナやイラク、チェチェンやカシミールなど占領されたイスラムの土地を解放することはジハードであり、それはすべてのイスラム教徒の義務であるという認識がある。こうしたマイナスの要素がある限り、ジハードの名のもとにテロが起こる可能性は減らないだろう」
――イスラエルのレバノン攻撃の見通しについて。
「これについて見通しを述べるのは難しいが、テロの関連で言うと、ザルカウィのグループのようなスンニ派のジハード主義グループは、いまだにイスラエルのレバノン攻撃について一言も発言していない。これはよく誤解されるのだが、ザルカウィのグループから見れば、ヒズボラはイスラエルの仲間であり、ジハードの対象なのだ。同じアルカイダでもザワーヒリーやビン・ラディンとは異なる。イラクでシーア派を攻撃してきたスンニ派ジハード主義グループはレバノン危機に際し動きがとれない、あるいは、イスラエルとヒズボラの共倒れを期待して動きをとる気がないのかもしれない」 「ヒズボラがシーア派でその背後にイランがいるのではとの疑念が多くのアラブの国にある。一部のアラブの国が今回の危機にあたって、イスラエル非難だけでなく、ヒズボラに対しても苦言を呈したのは、シーア派やその背後のイランを見据えてのことだろう。したがって、イランの核開発問題なども一緒に考えなければならない。決してイスラエルとレバノンだけの話ではない」
ソーシャルブックマークサービスにこの記事(ページ)を登録